「横浜へドンキホーテを買いに行こう」

夜半に知人に会い、しばらく預けていたものを受け取る(諸事情あってこの約束も反故となり、明日になる)以外、今日はこれといった用件もなく、京王バスで中野に出掛ける。何も買わずに帰るのは虚しく、かといって高いものを買う余裕もなく、明屋書店で文庫本を買い求む。

終戦日記 (文春文庫)

終戦日記 (文春文庫)

大佛次郎の1944年9月から1945年10月までの日記を編集したもの。この間に日本で何が起こったのか、知らぬ者はいないだろう。公開を前提としたものではないので、当時のインテリ男子が何を考え、いかなる生活を送っていたのかが偽りなく書かれており、まことに面白い。まだぱらぱらと拾い読みしている段階だが、兄の野尻抱影を快く思っていなかったなど、意外なことを知る。「ヒットラーの顔はほかの連中に比べまったく人工的である。TOJOの顔がこれに近い」(1944年9月11日)に吹き出す。「TOJO」とわざわざアルファベットで書いたのは、万が一、他人の目に触れたときを考えての対策ならんか。
またフランスの貴族の格言を引用した箇所があるのだが、"cettes"でなければならぬ指示形容詞を"ces"と書いており、*1微笑ましくなる。『パリ燃ゆ』や『ドレフュス事件』の著者でさえ"chose"という基本的な名詞の性を間違えるのだから、オレのフランス語などは出鱈目でもいいわけだ。いや、出鱈目なままでいいと開き直っているわけではないが、ある種の安心感を得られる。
なお見出しは本文からの引用だが、大佛はセルバンテスの長篇小説の英訳版を横浜に買いに行ったのであって、「ドンキ」の横浜店(あるのだろうか)に行ったわけではない。

*1:これはまたもや大間違い。指示形容詞の複数は女性でも男性でも"ces"なので、大佛の引用で正しい。最近どうも、基本的な文法知識のなさを露呈することが多い。なぜ"cettes"などという奇怪なものを「正しい」と思い込んだのだろう、オレは。