犬を連れた奥様についていく猫

動物に興味のないひとには何とも詰まらない話だろうが、自分にとっては面白くていささか感動的な出来事だったので、書くことにする。
今日、いつものように犬を散歩させていたら、同じように犬を散歩させていた中年女性がいた。それだけなら当たり前の光景だが、なんと、その犬のうしろを三毛猫がとことことついていくではないか。いつも同じ場所で見かけるので、飼い猫なのか自由猫なのかと考えていた猫である。猫を飼ったことがあるひとなら知っているだろうが、この肉球野郎は手前勝手なことばかりしやがって、間違ってもひとの命令に従ったりはしない。また一般に犬とは相性が悪く、出会い頭に喧嘩になるのも珍しくない。紐もつけていない猫が犬およびその飼い主の散歩に同行するのは一大奇観である。
それで思わずじろじろと観察したのだが、この猫はどうも飼い猫のようで、くだんの女性は門を開けて家に帰るときに、招くように猫もなかに入れた。犬と猫をどちらも飼っていることさえ滅多にないのに、さらに猫が犬とともに散歩するなど、なかなか見られるものではない。
前にも書いたかもしれないが、パリで一度だけ紐をつけて猫を散歩させている女性を見たことがある。あれが唯一の「猫の散歩」であった。
しかし散歩を「させている」などと書くと、人間のほうが偉いのだと暗に言っているような感じがして、どうにも鼻持ちならない気持ちになる。