「同世代」という罠

大岡昇平太宰治はともに1909年生まれの同い年である。大学在学中にこれを知ったときには、軽い衝撃を受けた。なぜなら太宰は自分の父親が中学生(新制)のときに死んだ*1「歴史上の人物」であり、大岡昇平は自分が大学生になる直前まで生きていた「つい最近のひと」だからである。それに大岡が実質的なデビュー作(それ以前から翻訳や評論、習作めいた小説は手掛けていたが)である「俘虜記」を執筆したのは1946年で、同作品を発表したのは1948年。この年に太宰は自殺しているのだから、文学者として活躍していた時期が重ならない。単に生まれた年が近いからといって、複数の人物を勝手に「同世代人」とくくるのは危ういと自覚した最初の例である。といいつつも、現在進行形で活躍中の人物については、安易な世代論を展開したくもなるのだが。

*1:余談だが父は太宰という作家を当時は知らず、新聞を読んだときは「だざいじ」という苗字のひとが自殺したと思ったそうだ。