史上最古の自己啓発書?

自省録 (岩波文庫)

自省録 (岩波文庫)

四方田犬彦『人間を守る読書』(ISBN:4166605925)で、病床に就いたフーコーが死の直前まで読んでいたのがこの本だと知り、買い求める。なるほどたしかに、ちまたに溢れる安っぽい自己啓発書や通俗人生論を多読するなら、この本だけを繰り返し読んだほうがよい。ぱらぱらと拾い読みしただけでも、それは充分に伝わる。
しかしここでアマゾンのカスタマーレビューをチェックしたのが運の尽き。『自省録』には多くのひとが讃辞を寄せているのだが、どうも「安っぽい自己啓発書や通俗人生論」に感動したかのような文体が目に付くのだ。そこで同じレビュアーがほかにはどんなものを褒めているかを調べると、エンターテインメント系の映画や小説(これらはまだよい)、そしてまさしく「安っぽい自己啓発書や通俗人生論」(戸塚宏の著作を絶賛しているひとさえいる)であることが多いのだ。ナンカイなゲンダイシソーやゲンダイブンガクに親しんでいるレビュアーはあまりいない。
だから悪いというわけではない。というかこのように「アマゾンのカスタマーレビューなんて、くだらない連中の吹き溜まりだぜ」と思い上がるのを、古代ローマの賢帝は戒めている。だいたい「晩年のフーコーが愛読していた」なんてのを四方田犬彦経由で知って手を出すオレのほうが、「安っぽい自己啓発書や通俗人生論」を多読した末にこの本に行き着いて平安を得たひとよりも、はるかに卑小な存在かもしれない。「また私は同胞にたいして怒ることもできず、憎む事もできない。(中略)そして人にたいして腹を立てたり毛嫌いしたりするのはとりもなおさずお互いに邪魔し合うことなのである」。その通りです。ごめんなさい。虚心に読みます。