プログレ雑考

「雑考」なのでこれといった結論はない、と最初から逃げを打っておく。
オレがクラシック音楽と洋楽ロックを本格的に聴くようになったのはほぼ同時期(クラシックのほうが少し前か)なのだが、当時からいまにいたるまで何が面白いのかまるで判らないジャンルがある。それはプログレッシヴ・ロックというやつだ。
オレがはじめて聴いた「プログレ」のレコードはおそらくYESの「こわれもの」だが、「クラシックを作曲・演奏するための正統的な教育を受けていないひとが『クラシックもどき』を作ろうとすると、ここまでみじめな代物になるのか」という白けた感想しか抱けず、冒頭の数分でテープかCDの停止ボタンを押した。ピンク・フロイドEL&Pにも同じ感想を持ったはずである。とりわけEL&Pキース・エマーソンブラームス「第四交響曲」の第三楽章を多重録音したテープを聴いたときは、あまりにも下手糞すぎて失笑した。ちなみにこの曲なら、歴史的名盤とされているカルロス・クライバーの演奏がiTunes Storeで試聴できる(クリックすると、iTunesが自動的に起動します)。
しかしいまになるとキース・エマーソンの演奏能力にすべての責を負わせるのは酷かな、とも思える。1970年代前半のシンセサイザーレイテンシー(鍵盤を押してから実際に音が出るまでの遅延時間のこと)がいまとは比較にならないくらい激しかったはずで、「ブラ4」の第三楽章のように速いパッセージが多発する曲を演奏するのは難しかったのかもしれない。当時の「シンセサイザー音楽」にスローテンポでレガート気味のものが多く、「幻想的」などと評されたのも、そのためかもしれない。初期のYMOでも坂本龍一が手弾きで8分音符のコードを叩いているパートは、けっこうもたもたしている。
と、話がどんどん横に逸れたが、そんなオレでも好きになった数少ないプログレ・バンドがキング・クリムゾンである。どうもこのバンドは、ほかの連中に較べてクラシック音楽へのつまらない劣等感が稀薄で、もっと清く正しくロックンロールしているように感じられたのだ。特に「レッド」は多いときは1日に5回くらいは聴いた。あとはフランスのマグマもお気に入りで、"M.D.K."は「要するにストラヴィンスキーの『結婚』の猿真似じゃん」と気付いたあとでも好きであり続けた。
プログレは基本的には「マジ」な音楽なのにクリムゾン(というかロバート・フリップか)やマグマ(というかクリスティアン・ヴァンデールか)にはたがの外れたユーモアがあり、そこが気に入ったのだろう。
以上、本当にまったくの雑考であった。

追記

はてなブックマークで反応があったので、答える。なぜこういうコメントを本人のブログではなく、はてなブックマークのコメントで残すのか、その心理がよく判らないのだが。

id:hisamura75 Music ブラームスの多重録音はキース・エマーソンではなくて、リック・ウェイクマンです/『こわれもの』の冒頭は8分の大曲Roundaboutですが、この曲にクラシック音楽の片鱗でも入っているとは思えないです。

キース・エマーソンリック・ウェイクマンを混同していたのは、完全にこちらの記憶違いです。申し訳ありません。あとは「おそらく」と書いているように、最初に聴いたプログレのレコードがYESの「こわれもの」だったという確証はありません。とにかく最初に聴いたものから、クラシック音楽の「こわれもの」ならぬ「まがいもの」という印象を持ったのは事実です。iTunes Storeで試聴できたので「Roundabout」を聴きましたが、たしかにクラシック的な要素は稀薄ですね。オレが拒絶反応を起こしたのは、むしろピンク・フロイドだったかもしれません。