「癒し系」じゃなくても癒される

金曜の夜だからといって夜中まで呑み歩いていた愚民どもは、昨晩、NHK総合で22:00から放送された「YMOからHASへ 高橋幸宏坂本龍一細野晴臣 音楽の旅」を見逃したのに後悔の臍をかむのが義務であり、倫理的な態度であろう。どうせマニアなら誰でも知っている情報を再構成しただけだと思って録画を怠ったみずからが悔やまれる。
何しろ5月の横浜パシフィコでのライブで披露した曲の数々を、ほぼフルヴァージョンで紹介していたのだから、たまったものではない。「以心電信」「CUE」「ONGAKU」「Riot in Lagos」といった過去の定番レパートリーを、きわめてリラックスした態度で、しかもエレクトロニカ以降の潮流をしっかり押さえたアレンジで演奏しているのだから、こちらの頬まで緩んでくるではないか。しかもテープやシーケンサーにはできるだけ頼らず、「音楽ユニット」としてではなく、「バンド」として演奏しているのだ。おそらくは公衆の面前でドラムを演奏するのが20年ぶりぐらいになるであろう坂本龍一が、いつ音を外すまいかと緊張しながらスティックを叩いているのに萌える。
リリー・フランキーがインタビュアーをつとめたインタビューで、予想もしていなかったかたちで神格化・伝説化されたされた存在と本人たちが素直に向き合えるようになるには、四半世紀もの時間が必要なのだなあ、と感じる。伝説化されるほどの仕事はひとつも残していないオレだが、このような50代になりたいよ。
というわけで、音楽はまるで「癒し系」ではないのに、きわめて癒された60分であった。