宙吊りの間違い電話

昨日は日記を更新しなかったのは、「登録する」をクリックしたまさにその瞬間からはてなダイアリーが定期メンテナンスに入り、そういうときにかぎってエディタで下書きをしなかったからである。他意はない。
同じことを書き直すのは気が進まないので違うことを書こうかと思ったが、書くことがないので同じことを書く(「なぜ私はこんなに言い訳がましいのか」)。
オレが世田谷区の千歳船橋駅近辺に住んでいて、まだ携帯電話が普及していなかったころ、「新宿高校の○○」と名乗る男性から間違い電話がかかってきた。声からして教師ではなく生徒だろうと思われた。おそらく彼は、級友かガールフレンドに連絡を取りたかったのだろう。この間違い電話はなぜかオレを安心させた。固定電話の番号の割り振りかたには地理的な法則がある(これを頼りに皇居の電話番号を探し出そうとしている人物の記事を、『Quick Japan』で読んだことがある)。そして新宿高校に通う生徒が世田谷区の小田急線沿線に住んでいるのは、不思議なことではない。間違い電話をかけた本人も、連絡しようとした相手も、おそらくはオレの近所に住んでいるのだろう。そう確認できるだけで、安心できるのだ。
しかし携帯電話となると、そうはいかない。間違い電話がかかってくるにしても、かけてしまうにしても、相手がいまどこにいるのか、まったく手掛かりが得られないからだ。もしかしたら北海道に住んでいて出張で沖縄にいる人間が大阪の友人に電話をかけたのかもしれないし、あるいはローミングサービスを使って海外からかけてきたのかもしれない。よく「固定電話は『場所』、携帯電話は『人』を呼び出す道具だ」と言われる。そして場所からまったく切り離された間違い電話というのは、どこかしらひとを不安な気持ちにさせ、宙吊りにさせられた気分にさせる。ハイデガーは月面か人工衛星から地球を撮影した写真を見て、「人間から大地が切り離される不安」を感じたそうだが(例によってうろ覚え)、オレが感じた不安もハイデガーに通じるのかもしれない。
と、無意味にスケールを大きくしてから、それこそ宙吊りのままで話を終わらせる。