偏向知識人

かつてオレがアルバイトしていた会社の同僚に、「偏向知識人」がいた。ちょっと「ネット右翼」的なところがあったが(彼こそがオレがはじめて出会った、「ネット上で右派的な言説を繰り広げる20代の青年」だったのかもしれない。1998年ごろの話である)、それをもってして偏向といいたいのではない。「博学なのになぜか基本的なことにかぎって知らず、結果としておかしな結論や思い込みに陥る」という点が、「偏向知識人」なのである。やや大袈裟な譬喩を使うなら、徳川家斉は知っているのに徳川吉宗は知らないとか、リンゴ・スターは知っているのにジョン・レノンは知らないとか、「畜犬談」は読んでいるのに「斜陽」は読んでいない(そんな作品があることさえ知らない)とか、そういう偏向具合なのである。
そんな彼がある日、「文学部では作家の文体模写が正規のカリキュラムとして組み込まれている」と自分のサイトで書いていた。もちろんそんなことはないのは、文学部出身のひとなら知っているだろう(ところで世間からもっとも誤解されている学部は、文系なら文学部、理系なら農学部だよな)。彼は2ちゃんねるの「○○について、××風の文体で語るスレッド」を愛読していた。上記の発言もこうしたスレッドに対する感想として出てきたものである。おそらくそのスレッドのなかに、「この手の文体模写は、文学部で真面目に勉強しているやつだったら当たり前」みたいな発言があり、それを拡大解釈してしまったのだろう。同僚といってもさほど親しくはなかったし、彼は自分のサイトが同僚に読まれているとは思っていなかったようなので、彼の勘違いを正す気にはなれなかった。
なお以上のエピソードは文学のふるさとであり、これといった教訓はない。いや、ないわけではないのだが、それは彼の名誉とプライバシーを傷付けるので書かない。まあ、「文学部は何かと勘違いされやすい学部だ」という一つの例として挙げるに留める。

追記

と思ったら、同じスレッドを読んで、同じ勘違いをしているひとを見付けた。
http://ks2004.sub.jp/2003/misc/old-2000-08.html
の8月9日の記述。
オレは学部は文学とはまったく関係のない専攻で、大学院から文学を専攻したので、もしかしたらじつはみんなやっていたのではないか、と不安に駆られてくるではないか。誰か「そんなわきゃねえだろ」と突っ込んでほしい。