しょぼいひとたち

蔵書整理の喜びのひとつは、再読したかったのに行方不明になっていた本が見付かることだ。しかし今日の読書は純粋な「楽しみとしての再読」ではなく、『虚栄の都市』と押井守パトレイバー2』の共通点を再確認するためであった。このふたつの作品が似ていることは一部では有名だが、たしかに設定も雰囲気もかなり近い。押井守はもとは小説家志望だったが、山田正紀のデビュー作『神狩り』を読んで「こいつには勝てない」と思って映像作家に転身した、というエピソードもある*1。ゆえに『虚栄の都市』も読んでおり、『パトレイバー2』作成中にこの小説のことが脳裡をよぎった可能性は高い。まあ、こんな風に状況証拠を積み重ねていったところで、押井守本人の発言がないかぎり、何も断定はできないのだが。
それにしても「正体も目的もまったく判らないテロリストによって東京が機能不全に陥る」という設定は、いまの読者のほうが興味を持ちそうなので、復刊すればそれなりに売れるのではないか。四半世紀前の作品だが、風俗描写もそれほど古びていない(風俗描写というのは、意外と古びないものなのである)。あとは山田正紀は「しょぼい」人間を書かせると上手い。この作品も「しょぼい」登場人物が効果的に配置されることで、勇ましけど底の浅い政治サスペンス小説になるのをまぬかれている。