マニアでないからこそ

最相葉月星新一』(ISBN:410459802X)、読了。著者がSFマニアではなかったからこそ書けた好著。もしマニアだったら思い入れが強すぎて記述から客観性が失われるか、一般読者にとってはどうでもいい知識が並ぶ見通しの悪い内容になったかもしれない。いろいろな感想が思い浮かぶが、オレにとって意外だったのは、星新一が一流の出版社から単行本を出したい、文学賞をもらいたい、とこだわっていたことだ。しかし星新一が病的に名声欲が強かったとは考えにくい。ここから先はオレの推測にすぎないが、もし小説家として大成しなかったら自分には「星製薬の再建に失敗した無能な二代目社長」という汚名しか残らない、という恐怖や焦りが彼にはあったのかもしれない。この汚名を振り払い、自分がひとかどの人物であることを小説に関心のない者にも示すために、判りやすい名誉を欲していたのではあるまいか。
あとは「笑っていいとも!」の放送終了後の15分だけ、という条件付きであるが、タモリに取材しているのも目を惹く。タモリがこうした本の取材に協力するのはおそらく珍しいことだろうし、とても時間が15分しかなかったとは思えないほど、星新一と自分の交流について詳しく語っている。SF関係者のみならず、タモリにとっても星新一は特別な存在だったのだろう。
と、断片的なエピソードだけ紹介しても本書の価値はまるで伝わらぬが、とにかくもう星新一に関心のあるひとなら読みなさい。