睡眠薬のふしぎ

むかし(だいたい30年ぐらい前)の小説や漫画を読んでいると、登場人物が市販の風邪薬を買うような調子でわりと簡単に睡眠薬を手に入れるシーンが出てくる。たとえば推理小説で犯人が被害者に睡眠薬入りのジュースを飲ませて、前後不覚になったところで殺す、などなど。
当時はそんなものだったのかな、と思ったのだが、薬剤師の母親に聞いたところ、むかしから睡眠薬は医師の処方箋がなければ手に入れられなかったとのこと。坂口安吾はアドルムという睡眠薬を愛用(というか、乱用)していて、薬が切れると三千代夫人に近所の薬局まで買いに行かせていたそうだが、これは戦後の混乱期ならではの特殊な事情なのだろう。
精神科がいまほどカジュアルな存在ではなかった時代の作家は、睡眠薬がどのように手に入るのか、具体的なことを何も知らずに適当な想像で書いていたのかもしれない。まあ、処方箋なしで手に入る非合法なルート(これはいまでもあるだろう)は確実にあったのだろうけど。ハイミナール!