訳された傑作

艶笑滑稽譚

艶笑滑稽譚

ああ、大学院時代のオレをさんざん苦しめた『コント・ドロラティーク』がついに日本語になったのか。19世紀人であるバルザックが、わざと擬似中世フランス語で書いているという、それだけでもうフランス語を母語としない人間が読む気が失せるようなものがついに翻訳されたとは、柳瀬尚紀の『フィネガンズ・ウェイク』全訳に匹敵する仕事かもしれない。
しかも訳者は大学院時代の「恩師」である石井晴一氏である(オレがつねに石井氏の期待を裏切り続けた、あからさまに不肖の弟子だったので、あえてカギカッコ付きで「恩師」とした。同じ理由で「石井先生」と書くつもりにもなれない)。まあ、石井氏以外にこれを訳せるバルザック研究家がいるとは思えないのだが。大学院時代の思い出話をだらだらと書くのはやめるが、『コント・ドロラティーク』を訳すためだけにラテン語まで勉強しはじめるほど、石井氏がこの作品にかける情熱はただごとではなかった。
しかしあのその、定価12,600円というのは、いくら何でも高すぎはしませんでしょうか、岩波書店様。