家族で楽しめる音楽

平成風俗(初回限定盤)

平成風俗(初回限定盤)

無罪モラトリアム』と『勝訴ストリップ』はまぎれもない名作だけど、音楽的なボキャブラリーが豊富すぎるのが災いしてその後は迷走状態に陥り(『勝訴』の時点でこの傾向は若干感じられたが)、東京事変で復調した、というのがオレの椎名林檎に対する意見。それでは今回のアルバムはどうかというと、保守的(もちろんいい意味で)で落ち着いた編曲のおかげで、ソングライターとしての彼女の魅力が素直に引き出されている。歌唱法からもエキセントリックさが薄れ、何というか「家族で安心して楽しめる」音楽になっている。誉めているのか貶しているのかよく判らない言葉が続いたが、こちらとしては椎名林檎の音楽的、人間的成熟を言祝ぎたいのである。彼女も来年でデビュー10年になるわけで、いつまでも「衝撃」や「驚き」ばかりを期待するほうが間違っている。
なお椎名林檎の楽曲でオレがもっとも愛するのは、『無罪』や『本能』のころに発表されたアルバム未収録曲なのだが(わざわざこれだけを集めてオリジナルCD-Rを作ったことがある)、これらをまとめてアルバム化する予定はないのだろうか。Wikipediaによれば彼女はベストアルバムを作るのを拒否しつづけているようなので、実現は難しいかもしれない。それから最高傑作は、ともさかりえに提供した「カプチーノ」。これはもう、日本のポピュラー音楽史に強引にでも残さなければならない名曲だと勝手に思い込んでいる。