ノラクロヲ救済セヨ!

澁澤龍彦の『記憶の遠近法』を再読していたら、「少年冒険小説と私」というエッセイに次の一節を見つけた。

 ついでに述べておけば、私は「のらくろ」が大好きだったし、今でも好きなことに変りはないが、これも、軍国主義や軍隊生活礼讃のためでは全くないのである。「のらくろ」のユーモアは、きわめて知的なユーモアである。軍隊生活は、単なる枠にすぎない。その基調は、まことに健全なヒューマニズム(犬だからヒューマニズムと言うのも変だが)である。あんなマンガで軍国主義を鼓吹されるようなひとがいるとしたら、よほど精神の硬直したひとであろうと思わざるを得ない。

オレも「のらくろ」には愛着があり、3年前にこのような文章を書いたことがある(しかし下手糞な文章だ。おそらく泥酔して書いていたのだろう)。あらためて述べるが、「のらくろ」は「軍隊が舞台の生活ギャグ漫画」であり、露骨に軍国主義的な内容ではない。軍隊が舞台だからといって軍国主義的だと非難するのは、大学生が主人公の漫画を学歴偏重主義を助長していると非難するようなものだ。文句が言いたければ、きちんと作品を読んでからにしやがれ。
とは言うものの、いまでは「のらくろ」は絶版同然の状態となっている。おかげで1960年代後半に出版された復刻版には、冗談のような高値が付いている。なぜ講談社は「のらくろ」の再刊に踏み切らないのだ。売り上げが見込めそうにないからか、はたまた再刊したくてもできない権利上の問題でもあるのか。いずれにしても惜しい話である。漫画研究の上でも、「のらくろ」は欠かせない資料となるはずなのに。