住所喪失者

私の美の世界 (新潮文庫)

私の美の世界 (新潮文庫)

あまり根拠のない理由でこれまで読まずにいた森茉莉だが、さっと立ち読みした感じではなかなか読みやすくて面白そうだったので購入。食へのこだわりの強さは、生活無能力者ではあったが、なぜか料理だけは上手だった彼女の個性を伝えている。
以下、北杜夫の解説より引用する。

 三島(由紀夫)家のパーティの帰途、私の家への帰り道だというので、妻の運転でお送りしたことがある。すると茉莉さんは、自分のアパートの在所を忘れてしまった。いくら深夜とはいえ、これもいささか常識を外れている。このときは、またUターンしたり徐行したりしてようやくアパートを捜し出した。そのとき、私はいささかあきれ、半分はいっそうの尊敬の念を抱いたものである。

自分のアパートの住所を忘れるとは、それはさすがに尊敬しないわけにはいかない。