テンノーヘーカバンザイ

「蟻の兵隊」をようやく観る。敗戦後も上官の命令で中国山西省で戦闘行為を続けたが、「自主的に」残留したと見なされたため、政府から戦後補償を受けられずにいる元日本兵たちを描いたドキュメンタリー。娯楽性は皆無だが、まったく退屈せず。主人公の性格がエキセントリックではない「ゆきゆきて、神軍」、という比較は安易すぎるか。id:Apeman:20061227:p1のコメント欄でも指摘されているが、死んだ兵士は手厚く弔うのに、生き残った兵士にはつくづく冷淡なのだな、日本国政府は。DVDが市販されたら、「お届け先」を首相官邸にしてアマゾンで買ってやる。
主人公が中国マスコミの取材に対して、「(立派な兵士になるための)『教育』として、中国人を殺したことがある」と答えたときの表情が印象に残る。悔恨の念に満ちているわけでもなく、かといって開き直るわけでもなく、事実を事実として語る静けさ。特定のイデオロギーに回収したくてもできないこの表情にこそ、えーと、あの、その、うまい表現が見付からない。自分の文章力の拙さを棚に上げるようだが、あの表情の前では言葉を失うしかないよ。
それから書き記しておきたいのは、右翼団体に属する若者たち(小野田寛郎が彼らに激励の演説をしていた)が靖国神社で「天皇陛下万歳!」と三唱するラスト近くのシーンで、お年寄りが半数以上を占める客席から「ぶはっ」という失笑が漏れたこと。本当の戦争を知っている世代に自分たちの行動がどう見られているのか、少しは考えたほうがいいかもしれないよ、きみたち。まあ、「蟻の兵隊」を観るためにわざわざ映画館まで足を運ぶ老人に、皇国史観の持ち主がいるはずもないのだが。
ちなみに殊能将之は「硫黄島からの手紙」に関して、次のような感想を述べている。

 世評どおり「ほとんど日本映画」なのだが、ここは日本映画ではできないな、と感じたことが2点あった。
(中略)
 もうひとつは、天皇陛下万歳のポーズがコミカルなこと。渡辺謙の心もち前屈みのバンザイを仰角で撮っているからだと思う。ただし、これはわたしの感じ方がおかしいだけかもしれない。
http://www001.upp.so-net.ne.jp/mercysnow/LinkDiary/links0612.html

もしかしたら「天皇陛下万歳!」は、あらがいようのない滑稽感を漂わせるのかもしれない。