びっくりするほど独創的な見解が述べられているわけではないが、多くのひとが知りたいと思っている社会現象を手際よくまとめ上げた、いかにも新書らしい新書。ただし
江原啓之が
靖国神社の
A級戦犯分祀論者で、
小泉首相(当時)の
公式参拝には反対だと雑誌連載で明言していると知ったときには、ちょっとびっくりした。しかも最近になって急に社会派に転向したわけではなく、もとからこうした問題が本質的だと考えていたとのこと
*1。このひと、世が世なら「スピリチュアル・カウンセラー」として悩める女性に支持されるのではなく、良識的宗教指導者としてインテリ男性に支持されていたのかもしれない。どちらが偉い、というわけではないのだが。それからいまどきのスピリチュアルにのめり込むひとにとっては、「自分の幸せ」が何よりも大切であって、だからこそ利他的な精神が根底にある既存宗教には惹かれないという整理には納得できた。そしていまの日本では、宗教色のないもろもろの社会運動やボランティアへの参加が、利他的な精神に溢れたひとたちの行き場になっているのではないか。
あと本論とはまったく関係がないのだが、
ユングと
ニューアカにほぼ同時期に興味を持ち、「二十世紀フランス哲学にかぶれていた私は、どうしても(
ユングの著作に登場する)そういった東洋的、中世オカルト的なものに違和感があり」、結局は
ユングを追究するのをやめたという
香山リカの大学生時代の話が印象に残った。ちなみにオレは
浅田彰が『構造と力』でばっさりと斬り捨てていたのがきっかけで、大学入学直前に
ユングへの関心を失った。こういう「
ニューアカをリアルタイムで知っている世代ならではの悲喜劇」はいつかまとめてみたいのだが、ただの懐旧談になりかねない。