時機を逸する

インストール (河出文庫)

インストール (河出文庫)

いまさらのように綿矢りさの『インストール』とはいかにも時機を逸した感があるが、話題になりすぎたせいで読む機会を逸してしまった小説など、誰にだってあるはずである。
ストーリーや構成はまだまだ拙いが、文体には魅力がある。綿矢りさは執筆にやたらと時間をかける作家だが、その大半は推敲に費やしているのだろう。推敲しすぎた文章からは躍動感が失われてしまいがちだが、それがないのは若さゆえの功徳か。じつは緻密な譜面が用意されているのに、完全なアドリブに聴こえる演奏を聴いたかのような気分。
なお文庫版の『インストール』には、ボーナストラックとして短篇「You can keep it.」が併録されている。気になる女性に好意を持たれるために、つかなくてもいいつまらぬ嘘をついては自滅していく男子大学生を三人称で描いた、これまでの綿矢りさとはいささか趣きの異なる作品。