「ブルックナーだってやってるじゃないか」
クララ・シューマンはピアノ教師の父からバッハやベートーヴェンの名演奏家になるように鍛えられて育ったから、夫のローベルト・シューマンの新音楽など骨のない音楽に見え、不安で仕方なかったろうが、アルマの場合は逆に、その環境からもジェネレーションからも、むしろマーラーよりもナウい音楽感覚の持主だった。そのことは、新婚早々に成った『第五交響曲』のフィナーレのコラールを、とって付けたようで古くさいと批判していることからも判る。その時の亭主の返事は「ブルックナーだってやってるじゃないか」であった。これは、シューマン家で想定されるこの種の問答とは、まさに逆だ。
柴田南雄『グスタフ・マーラー』
ちなみにアルマ・マーラーはツェムリンスキーに作曲を学んだ才女であった。夫に対するこの仮借ない批評精神(しかもそれが決して、「感性」とやらにもとづいたものではない)こそ、文化系女子の最たるものではあるまいか。
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