ミステリ

それに対してミステリは、ハイカルチャーや小説以外のジャンルと没交渉であった印象が強い。推理小説を好意的に評価した純文学関係者は多いが、実作品となると坂口安吾『不連続殺人事件』*1福永武彦の「加田伶太郎」名義での作品*2中井英夫『虚無への供物』、大岡昇平『事件』を除けば、大きな成果はなかった。またミステリ作家が、ミステリ的な漫画を絶讃したという話もあまり聞かない。

ミステリにおいてこうした状況が変化するのは、「新本格」の作家が登場してからである。「新本格」のイデオローグ*3である笠井潔の影響を受けた若い書き手によるミステリ評論は、1995年を前後として急増した。しかしこれらの評論を「柄谷系」と呼び、生理的な反撥を示す者が多かった。実際には柄谷行人よりも蓮實重彦に影響されたものや、柄谷が否定しているカルチュラル・スタディーズの方法論に則ったものがあったのだが、それらもすべて「柄谷系」扱いされた。ポストモダンニューアカデミズムに共感する作家やファンが少なくなかったSFとは好対照と言えるだろう。

*1:コメント欄でid:jounoさんに指摘されて追記しました。

*2:コメント欄でわたなべさんに指摘されて追記しました。

*3:島田荘司はイデオローグではなく、アジテーターであろう(笑)。