SF

わが国における初の本格的なSF雑誌である『SFマガジン』は、1959年に創刊された。この雑誌の初代編集長である福島正実は「SFは単なる通俗読み物であってはならない」という強い信念を持っており、みずからのSF観に反する作家には原稿を依頼しなかったらしい。初期の『SFマガジン』で代表的な論客として活躍した石川喬司の『SFの時代』(ISBN:4575658332)は、ナショナリズムプチブル的なものへの嫌悪に貫かれている。言ってみれば日本のSFは、福島正実を党首とする一種の「思想運動」として始まったのだ。このため、SFは当初からハイカルチャーとの親和性が高かった。その代表的な例が、『SFマガジン』からの依頼に応じて『人間そっくり』を連載したを安部公房だろう。また藤子不二雄永井豪の短篇漫画など、小説以外のジャンルを積極的に取り上げたのも『SFマガジン』の特徴だ。

ハイカルチャーならびに小説以外へのジャンルに開かれた姿勢は、その後も変わらない。SFとは縁遠い作家である井上ひさしの『吉里吉里人』が日本SF大賞を受賞したこと、また同賞の候補として*1大友克洋童夢』や宮崎駿風の谷のナウシカ』(アニメ版)が挙げられたことは、こうした姿勢が1980年代になっても維持されていた証拠となる。また同賞の主催している徳間書店が刊行していた『SFアドベンチャー』は、高橋源一郎島田雅彦中沢新一らの著作を書評欄で高く評価し、実際に彼らに原稿を依頼した。これをただ単に、「ハイカルチャーへの劣等感」と片付けることは難しい。SFはむかしからそのようなジャンルだったのだから。

*1:なおこの賞は候補作を公開しない方針なので、以下の情報はあくまでも「風の噂」の域を出ない。