作ってから殺すか、殺してから作るか?
予告どおり、『だれが「音楽」を殺すのか?』について。だいたいのエピソードはオレもすでに知っていたが、津田さんという自分の意見をはっきり主張するライターがリミックスすることで、いま何が問題になっているかが明快になる。読み物としてもリファレンスとしても有益な1冊。文化庁やJASRACを単なる「悪役」扱いにしない、フェアな態度にも好感を持った*1。
ただし2000年以前の日本のレコード産業に関する記述や、音楽との関連性が薄い註釈については、やや詰めが甘い箇所があった(ノキアはスウェーデンじゃなくて、フィンランドの会社だよ、とか)。しかしそれは言ってみれば、音質には深刻な影響を与えないCS1エラーのようなものにすぎない(笑)。
たとえば2000年以前のレコード産業に関しては、ほぼ同時期に出版され、この日記でも何度か言及している生明俊夫『ポピュラー音楽は誰が作るのか』を読めば、かなりはっきりした見通しを得られる。多くの論者がレコード会社ではなく制作プロダクションが原盤権を持っているのを「日本特有の現象」としているが、なぜこのような現象が起きたのか、『作る』は大正時代まで遡って綿密に解説している。音楽が好きで、日本のレコード産業に関心があるひとなら、『殺す』と『作る』、できれば両方読んでほしい。
ともあれ
「学術書は敷居が高そうだから、まず判りやすい本を読もう」というひとは殺してから作れ! 「最初に歴史的な背景を理解しておきたい」というひとは作ってから殺せ!