「極く普通のそこいらにゐる平凡な駄猫です」

帰ってきた駄猫

「平凡な駄猫こそがかわいい」と書いたのは内田百鬼園先生であるが、これはまったくその通りである。今日、睡眠薬の効き目が切れていないままで近所の電気店や金網店をうろつき、電気店のひとにテレビの修理を頼み、「ああ、ようやく直った」と窓を数センチほど開け放しにしたままで安堵して仮眠したら、わが愛する「駄猫の王」が失踪したのだ。覚醒とともにこの驚愕すべき事実を知るが、すでに日没しており、極度の近視であるオレが屋外で動物を探すのは困難になっていた。だいたい金網店に行ったのは、猫がこっそり逃げ出さないためにマンションの窓に網戸を取り付けようとしていたためなのだから、悲喜劇もここに極まれりである。餌を窓際に置いていたら、すぐに戻ってくる。大変に嬉しい。

ノラや (中公文庫)

ノラや (中公文庫)

この本はいまでも旧かなづかいなのだろうか。オレはファナティックな旧かな論者ではないが、この本は旧かなで読まないと、もっとも心暖まるエピソードが充分に味読できない。