サルトルは終わっていないよ
永野潤(id:sarutora ou id:zarutora)さんはみずからのはてなダイアリーで、さかんに「サルトルフォビア」(サルトル嫌悪)が日本のアカデミズムで蔓延しているのを指摘している*1。そこでおよばずながら、援護射撃に出たくなった。
なお構造主義やポスト構造主義の思想家で、オレがまともに読んだことがあるのはロラン・バルトだけである。そこで以下はバルトに焦点を当てて話を進める。いまではバルトはサルトルの失墜に一役を買った思想家のひとりだとされている。サルトルが世を去ったときに「朝日新聞」に掲載された記事も、そのように書かれていた。
しかしトリッキーな仕掛けをほどこした自叙伝"Roland Barthes par Roland Barthes"(ed.seuil,1975)には、「私が好きなものと好きではないもの」(J'aime, Je n'aime pas)を列挙した断章があり、好きなものとしてサルトルの名が挙げられている。当時存命中だったフランスの文学者で、このリストに含まれているのはサルトルだけである。
さらには遺作となった写真論"La chambre claire"(ed.seuil,1980)の冒頭には、
En hommage
à L'Imaginaire de Sartre
との献辞がある。直訳すれば「サルトルの『想像力の問題』に捧ぐ」となる。少なくともバルトは最晩年にいたるまで、ノーベル文学賞を辞退した斜視の母国人への敬意を失わなかった。
また「サルトルをもって『行動する知識人』の時代は終わった」とご託宣を述べる向きもあるが、ミシェル・フーコーは監獄の、ドゥルーズとガタリは精神病院の改善を求めて行動していたし(ドゥルーズは病弱なので、街頭に出たかどうかは不明だが)、ルイ・アルチュセールは真面目なフランス共産党員であり、ジャック・デリダも晩年は国際政治をめぐる諸問題について積極的に発言していた。「サルトルをもって『行動する知識人』の時代は終わった」なんて平気でほざいているのは、日本の大学でアカデミック・ポストを得て、安穏と生活しているフランス文学者だけなのではないかと思わなくもなく。オレは内田樹のファンだが、彼の「サルハラ(サルトル・ハラスメント)」は愚劣きわまりないと思っている。オレだって『水いらず』(ISBN:4102120017)と『ユダヤ人』(ISBN:4004110793)を翻訳で読んだだけ(おまけに『ユダヤ人』は簡単に拾い読みしただけ)の「薄い」サルトル読者にすぎないのだが。
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