避妊と中絶

今日は朔日で誰でも映画が1000円の日。そんなわけでネットで調べものをして、本日封切りのルーマニア映画「4ヶ月、3週と2日」が面白そうだと判断して、西武有楽町線に乗って銀座テアトルシネマへ。大学1年生の冬休みにクリスマス気分を完全に吹き飛ばすチャウシェスク政権崩壊劇をテレビでリアルタイムで見たために、この国には以前から漠然とした関心があったのだ。東欧にしては珍しく言語がゲルマン系ではなくラテン系(発音はともかく、スペルは何となくフランス語に似ている)なのも、興味を持った一因。
この映画、オレはまったくのノーチェックだったのだが、インテリ中年男性向けを中心に各種メディアでは注目されているようで、13:00に到着した時点で13:25上映の席はすでに満員。16:00上映の次回まで東京駅周辺をうろつく。最近の四方田犬彦がことあるごとに批判している東京国立近代美術館フィルムセンターにはじめて足を運ぶ。入場料200円でこの内容は安いが、しかし「国立」と呼ぶにはいまひとつ。フィルムの貸し出しをめぐっても官僚的な態度を取るらしく、なるほど、これでは批判したくもなるだろう。
話をもとに戻す。ときは政権崩壊の2年前になる1987年。当時のルーマニア正教会にもとづく宗教的な理由と労働力の補強という政策的な理由が相俟って人工中絶が非合法で、中絶に手を貸した医師は殺人罪で5年から10年の懲役刑が科されていた。そんな状況下でひとりの女子大生が望まない妊娠をしてしまい、ルームメイトの力を借りてルーマニアブラック・ジャックとでもいうべき男性医師によって手術をほどこされる1日を描く。当時のルーマニアの経済状況についてはよく判らないが、大卒初任給のほぼ倍の金額を請求されていた。エンディングロールとホテル内でのパーティーの場面を除けば音楽はまったく使われておらず、画面はつねに薄暗い。難解な手法を駆使した実験作でも観客を飽きさせないための工夫を凝らした娯楽作でもないひどく地味な作品だが、なかなか目が離せない。目下恋愛中だが避妊や中絶といった問題には無頓着な20代、30代の男女(特に男な!)は必見。
しかしこの春に大学生になるひとはまさにチャウシェスクが射殺されたころに受胎された可能性があるのだから、時間がすぎるのは速い。