西日本漫画ふたつ

アパートの物件探し(「ペット可」になると、いきなり選択肢が減る現実に泣く)のあと、江古田駅前の竹原書店に寄る。相変わらず漫画の品揃えが妙にいいな、この店は。

京大M1物語 1 (ビッグコミックス)

京大M1物語 1 (ビッグコミックス)

「(家族の期待を裏切って)大学院に、入ってくれるわ」「最も金にならない、最も訳の分からない教室に入ってやる」という主人公のモノローグとタイトルがすべてを物語っている。「M」はもちろんマスターコースの略だが、まあ、現実はマゾヒストの略のようなものである。そういう事情を知っているひとなら楽しく読めるのだが、知らないひとはどうなのか。『高学歴ワーキングプア』を読んでも懲りずに「大学院に、入ってくれるわ」と考えている現役の学部生は、この漫画を読んでもういちど考え直すように。博士論文どころか修士論文さえ書くタイミングをつかめず、「M4」までやらかしてしまった男からの真摯な忠告である。
ところでこの作者は女性の名前を考えるのが苦手なのだろうか。女性が3人登場するのに(助手と秘書と現役院生)、全員ファミリーネームしか判らない。ちなみにオレはちょっとメンヘル風の文化系女子(舞台は理学部だが)の淀さんが好み。凡庸だなあ。
あと主人公は「母校東大は、その意味では『役に立ちそうな』教室ばかり」だという理由で京大の院に進学するのだが、東大にも表象文化論コースなど、名前だけでは何をやっているのか判らないおかしなものがあるではないか。でも教官にベストセラー新書の著者や芥川賞作家がいるので、「役に立ちそう」か、表象文化論は。
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

戦時下の日本を、それでも明るく逞しく生きる女性の物語。と書くとこうの史代のいつも作風を、単に過去に移しただけのように思うかもしれない。しかし主人公が広島市出身の呉市在住で、この調子で話が進むと下巻では昭和20年8月の情景が描かれるのは確実である。こうの史代の作品系列のなかではどこか浮いていた『夕凪の街 桜の国』が、この作品の完結によってようやく収まるべきところに収まりそうな感じ。