最近のお仕事とお勧めの文献

ソフトバンククリエイティブが週刊で発行している無料メールマガジン「週刊ビジスタニュース」に、「大学院は出たけれど」を寄稿しました。『東京物語』くらいしか小津作品を観ていないのにこんなタイトルを付けるのはいかがなものか、というのはともかく、内容は読んで字のごとく、大学院(特に人文系)の出身者が置かれている苦境を、水月昭道高学歴ワーキングプア』(ISBN:4334034233)で得られた知見をまじえつつ、個人的な経験を加味して論じたものです。ぶっちゃれば、「文系の大学院(特に人文・社会学系)には、安易な気持ちで進学するのはやめておけ」と言いたいわけですが。
もっとも人文系の大学院といってもどんな雰囲気なのか、知らないひとは知らないかもしれません。上記記事を読んで、もっと詳しいことを知りたくなったら、以下の書籍とブログをお勧めします。

葦と百合 (集英社文庫)

葦と百合 (集英社文庫)

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)

ノヴァーリスの引用 (集英社文庫)

「大学院生小説」(そんなジャンルはないが)を書かせたら、右に出る者はない奥泉光。本人が博士課程まで進学して研究者になりたかったのに、小説家に「転向」したという経歴の持ち主なので、細かい描写にリアリティーがありすぎます。『ノヴァーリスの引用』は技巧に走りすぎているきらいがあるけど、『葦と百合』はポストモダニズム文学に耐性のあるひとなら面白く読めるでしょう。
でも企業の人事採用者が奥泉光を読んだら、「やっぱ、人文系の大学院生ってのは浮世離れした連中かもなあ」と思ってしまうかもしれません……
先生とわたし

先生とわたし

著者の四方田犬彦の大学生から大学院生時代の知的自叙伝であり、師匠である由良君美の評伝であり、本格的な教育論でもある、「一粒で三度おいしい」長篇評論。直接的に「大学院とは何か」が論じられているわけではありませんが、院生時代の四方田青年が目にした魑魅魍魎のうごめく世界には、ゴシップ的な興味を持つ読者もいるでしょう。
大学という組織は決して「学問への純粋な情熱」に支えられているわけではなく、一般企業以上にいやらしい人間関係がはびこっています。でも必要な単位を取って卒業すればそれで充分だと思っている学部生にはそうした側面はなかなか目に入らず、院生になってから「大学ってこんなところだったのか」と愕然とするわけです。少なくともオレが大学に残って研究を続ける意欲を失った理由のひとつには、大学の「負の側面」を垣間見たことが挙げられます。
嗚呼院卒就職
大学院でジェンダー論を専攻したものの、博士課程に進まずに一般企業に就職した「ちだりん」さんのブログ。院生時代のログも残っているので、彼女がなぜ研究者への道を諦めて就職したかが、手に取るように判ります。就職したのが今年なので、大学院と企業をめぐる現在の関係が伝わります。