ソフトクリーム状のアレ

あからさまに描くことが法的に禁じられてきたものを戦後日本の漫画家がいかに表象してきたかについては、竹熊健太郎による先駆的な研究「マンガは『性器』をどう表現してきたか?」がある(夏目房之介・他『マンガの読み方』所載)。しかしながら法的に禁じられているわけではないが、社会通念上、あからさまに描かないほうがいいことになっているもの、たとえば排泄物の表象の研究はいちぢるしく立ち遅れていると言わざるをえない。たとえばオレは大便をソフトクリーム状に描く表現、あれはてっきり少年漫画誌で活躍していたギャグ漫画家が1970年前後に生み出した、日本独自の表現だと思っていた。
ところがじつはそうではなかった。手元に該当書籍がないので正確な紹介はできないが、多木浩二『絵で見るフランス革命』(ISBN:4004300746)には大便をソフトクリーム状に描いている、革命当時のカリカチュアが掲載されている(一般庶民が路上でズボンを下げて、旧体制が発行した公文書の上に脱糞している構図だったと記憶する。まさに「権力クソ喰らえ」といったところか)。少なくともこの表現は18世紀ヨーロッパのカリカチュア作家まで起源を遡れるのである。これが日本に輸入されたのは、おそらく明治期にいわゆる「ポンチ絵」が大量に紹介されてからだと推測する。
またもうひとつ気になることがある。オレがさすがにローティーン向けのギャグ漫画を読む機会が少なくなったかもしれないが、昨今の漫画ではこの表現を目にする機会が少なくなったように感じられるからだ。オレの蔵書にかぎっていえば安部吉俊+gk『ニアアンダーセブン』(1999年-2001年)が最後だが、この作品にしたところで、「ソフトクリーム状の何か」がもはや常套的な表現に堕したことを皮肉る内容となっている。もしかしたらいまの小学生は、「スクリーントーンを貼ったソフトクリーム状のアレ」を見ても、その意味するところを理解できないのかもしれない。
とまれこれは、研究しがいのあるテーマだと思う。オレも時間と資料さえたっぷりあれば、取り組んでみたい。