一巻で完結する漫画十選

オレの読書生活で漫画が占める割合はさほど大きくないのに、本棚は漫画に占有されている。これはひとえに人気のある作品の連載をずるずると長引かせるという業界の悪しき慣習のせいである。この状況に抗議するために、というのはもちろんただの言い訳で、何だか面白そうだから「一巻で完結する漫画十選」を選んでみた。あまり古い作品や、寄せ集め的な短篇集は除外する。
なおオレは漫画に関しては読書メモを取る習慣がないので、読んだのをすっかり忘れている作品が多く、さらに好みがきわめて偏っており、食わず嫌いしている作品も多い。誰もが評価する重要作品が抜けていたら、上記ふたつのいずれかが理由であろう。

ひかりのまち (サンデーGXコミックス)

ひかりのまち (サンデーGXコミックス)

凹村戦争(おうそんせんそう) (Jコレクション)

凹村戦争(おうそんせんそう) (Jコレクション)

いきなり浅野いにお西島大介というのは、サブカル中年の典型のようで恥ずかしいが、好きなのだから仕方がない。ただし『凹村』以降の西島作品は、どうもぴんと来ない。浅野いにおの既刊の作品はどれも気に入っている。
失踪日記

失踪日記

むかしからの吾妻ひでおファンしか買わないのだろうと思ったのだが、「たけくまメモ」効果もあってか、大ベストセラーに。10年前に出したとある単行本のあとがきで、「今度は太宰治伝を描きたい」と言っていたが、いまでは忘れているのだろうなあ。個人的にはこの作品の続編よりも読みたいのだが。
瞳子 (小学館文庫)

瞳子 (小学館文庫)

単行本版に収録されている作者あとがきが、文庫版にも再録されているかどうかは不明。ともあれ単行本版のあとがきに列挙されている固有名詞を見て(といっても漫画は立ち読みできないことが多いが)、懐かしさと気恥ずかしさと照れ臭さに襲われたひとなら読むべきであろう。
童夢 (アクションコミックス)

童夢 (アクションコミックス)

「古い作品は除外」といっておきながらこれを入れるのはおかしいかもしれないが、一巻で完結する優れた漫画として、これを挙げないわけにはいかないだろう。というかたった25年前の作品を「古い」と感じてしまうのが、出版点数が多すぎるせいで、すぐに忘れられる作品も多い現状を示している。
ひいびい・じいびい

ひいびい・じいびい

これも古い作品だな。親本は1987年刊。実験性と娯楽性がほどよく兼ね備わったギャグ漫画(途中でシリアスな作品がいくつか挟まるが)。こういうメタフィクション性の高い作風のギャグ漫画家は精神的に「壊れる」ことが多いのだが、とり・みきは安定している。批評家気質が強くて、自分を客観視できるからか。
1限めはやる気の民法 1 (ビーボーイコミックス)

1限めはやる気の民法 1 (ビーボーイコミックス)

これは全2巻なのだが、2巻は外伝というか番外編的な内容で、ストーリー的には1巻で完結している。過激な同性愛描写が苦手なひとは、2巻は読まないほうがいいかもしれない。よしながふみなら『愛すべき娘たち』か『ソルフェージュ』だろ、というひともいるだろうが、大学生が主人公の作品には点が甘くなるのだ、オレは。
クマとインテリ (EDGE COMIX)

クマとインテリ (EDGE COMIX)

最近ではオノ・ナツメ名義の一般向け作品で人気だが、Basso名義のボーイズラブ作品も捨てがたい。こういう絵で現代ヨーロッパを舞台にしたボーイズラブを描ける漫画家がいるのか、とびっくりした。しかし何がきっかけでこの本を知ったのか、どうにも思い出せない。こういう例はわりと珍しい。
大阪100円生活?バイトくん通信

大阪100円生活?バイトくん通信

数あるいしい作品はどれも好きなのだが、あえてこれを選ぶ。マスコミに露出して私生活を語ることがほとんどない彼が、珍しく学生時代の思い出を積極的に語っているからである。ここまで書いてきたら過去の記憶がどんどん甦り、「あれも落とせない、これも外せない」と収拾が付かなくなったので、最後は変化球を。これといって冴えたところがない万年係長の中年男性が、何の因果かスーパーマンになって超能力を獲得するという、『エスパー魔美』のネガのような物語(連載時期もほぼ同じ)。藤本・F・不二雄の大人向け作品はペシミスティックなものが多いが、これは呑気に楽しめる。代表作でも大傑作でもないが、愛すべき佳品。