「白桃あるいは樹墻による保護なしで仕立てた桃」
- 作者: ロランバルト,Roland Barthes,佐藤信夫
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1997/06/07
- メディア: 単行本
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しかし交通事故で世を去った同性愛者のフランスの思想家が、1975年に発刊した倒錯的な構成を持つ自叙伝でこれらを好むのを明言し、『レトリック感覚』がそれなりのベストセラーになった日本の言語学者が、1979年にこのような日本語に翻訳したのはまぎれのない事実なのである。
この「白桃あるいは樹墻による保護なしで仕立てた桃」は果たして何のことなのか、しばらくオレを悩ませることになった。しかし原著を買い求めることによって、この疑問は立ちどころに解消した。いま原著が手元にないので、原文を示すことはできないのだが、「作者の死」という小論文で1960年代の知的世界に大きな影響を与えた美食家は、単に「露地栽培した桃」が好きだと言っているだけなのだ。中級者向けの仏和辞書をひもとけば、ちゃんとそのような訳語が載っている。
ではなぜ『レトリック感覚』の著者はこんな奇妙な翻訳をものにしてしまったのか。答えは簡単で、フランス文学にかかわる者の多くが愛用している仏仏辞典、"Petit Robert"の説明文をそっくりそのまま直訳しているからである。おそらくこの訳者には、「いまさら仏和辞典に頼るのは恥ずかしい」といったプライドがあったのではないか。
以上、はてなブックマークでちょっと話題になった翻訳者のあるべき姿とは - 両世界日誌を読んで思い出したので、ふと書きたくなった。
ところでこの本は1997年に新装版が出ているわけだが、この「白桃あるいは樹墻による保護なしで仕立てた桃」は改訳されているのだろうか。
- 作者: Paul Robert
- 出版社/メーカー: Le Robert
- 発売日: 2005/01
- メディア: ハードカバー
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