気難しいラーメン屋

「サービス業なのに、なぜか店主が無愛想な職業」の二大筆頭は古本屋とラーメン屋だろう。古本屋は判らなくもない。ブックオフのような新古書店ならともかく、むかしながらの古本屋の店主など、偏屈な本好きと相場が決まっている。
問題はラーメン屋である。テレビのグルメ番組で「やたらと無愛想でスパルタ式に弟子を鍛えるラーメン屋」が人気を呼んだのが原因だと考えている。
オレが東京の練馬駅周辺に住んでいたころ、よく通っていたラーメン屋があった。そこの店主もやはり無愛想であり、「このひともマスコミの影響を受けて、『無愛想な店主』を演じているのかな」と思い、最初はいささか怖気ついていた。しかしとんこつラーメンを食わず嫌いしていたオレが常連になるくらい旨かったから、よく通っていたのである。もっとも「まちBBS」を読むと、「あの店はおいしいという評判だけど、店主が怖そうだから入る気になれない」と語るひとがいた。
そしてある日、行き着けの居酒屋が同じだったという理由からその店主と親しくなった。彼によれば「自分がいつも無愛想なのは、短期記憶力がよくなくて、気を抜くとどの客が何を注文したかを忘れそうになり、必死の表情になるからだ」と語っていた。
実際のその店主は酔うと上機嫌になり、現地で食べる韓国料理の魅力を力説し、セクハラにならない範囲で女将さんに甘える「気のいいアンチャン」であった。
真相を知ってしまえばどうということはない、という話の一例として書く。