映画と太宰

映画といえば、太宰治はある種の記録を打ち立てていると思う。それは「誰もが認める大作家なのに、代表作がほとんど映画化されていない」という記録だ。こういうときについつい頼りにしてしまう日本映画データベースによれば、太宰が原作の映画は1作もないことになる。いくら何でもそれはないだろうともう少し調べたら、2006年に「富嶽百景」が映画化されたのを知る。ただしこの映画がそれほど話題になった記憶はない。まあ、公式サイトのURLが奇天烈なサンプリングCDで知られるカエルカフェの直下にある時点で、「ああ、そういう客層を狙った映画なのね」と思ってしまうわけだが。さらにGoo映画で検索したら、『パンドラの匣』を脚色した『看護婦の日記』、「グッド・バイ」、「葉桜と魔笛」を脚色した『真白き富士の嶺』、「走れメロス」(アニメ)があることを知ったが、それにしても作家の知名度に較べて、映画化された作品が少なすぎる印象は拭えない。「グッド・バイ」が映画化されているのには、ちょっと驚いたが。戦後の混乱期のどさくさまぎれに「情死した作家の遺作を映画化してやれ」と勢いで作ったのかもしれない(公開は1949年)。
太宰はなぜこんなにも映画化されないのか。それは太宰の小説の魅力が文体の巧みさや構成の妙によるところが大きく、映像ではそうした魅力が再現しづらいからではないかと想像する。