鉄道文学?

笙野頼子三冠小説集 (河出文庫)

笙野頼子三冠小説集 (河出文庫)

とりあえず芥川賞受賞作の「タイムスリップ・コンビナート」を読む。笙野頼子は「なにもしてない」が話題になったころから、読めば気に入りそうな予感があったのだが、実際に読む機会がなかった。読んだらやはり面白かった。この種の手法を駆使した作品には、「すれっからし」になっているつもりだったのだが。「中央線が日本を統御しているという気がする」地方出身者が、東京駅で乗り換えなくてもたどり着ける目的地(西武新宿線都立家政駅からJR鶴見線の海芝浦駅まで)に東京駅を経由してたどり着こうとしては目的地から逸脱しつづけるという「本筋」(もちろんこの小説は「本筋」を理解できればそれでいいというたぐいのものではない)を、良質な鉄道文学として楽しむ。
あ、そうだ。最近読んだ原武史『鉄道ひとつばなし 2』(ISBN:4061498851)に、宮脇俊三を引用しながら海芝浦駅の魅力を語ったコラムがふたつ収録されていたのだ。いま確認した。この小説の冒頭に「海芝浦」という言葉が出てきたときから、「同じような駅の話を何日か前に読んだ気がするんだけどなあ」と思っていたのだが。こういう偶然の一致もまた読書の楽しみである。ともあれ次に上京するときは、海芝浦まで足を運んでみよう。