「私はその頂点に立つ凡庸なる者の守り神だ」

テレビ放送などで「ネタ」もしくは「資料」として何度か断片的に観たことはあるが、「映画」として観たのは今日が初めて。大まかなストーリーや「名シーン」を事前に知ってしまっていると、なかなか作品世界に没入できないものだね。悔しい。モーツァルト夫妻の自堕落な生活がもっと露悪的に描かれていた記憶があるが、実際はそうでもない。特にコンスタンツェが気丈な女性として描かれていたのはまったく記憶に反していた。この映画(というか、もとになったピーター・シェーファーの戯曲)は「コンスタンツェ悪妻説」に対するアンチテーゼとして作られたのかもしれない。何しろオレも映画の内容を間違って覚えてしまうくらい、コンスタンツェ悪妻説はクラシック音楽ファンの常識になっているのだから。
それにしてもラスト近くで老いぼれたサリエリが「私はその頂点に立つ凡庸なる者の守り神だ」と語るシーンは、何度観ても心に迫る。はじめて観たのが蓮實重彦の『凡庸な芸術家の肖像』を読んだのと同じころだったからかもしれないが。