パクリ合戦と盗作

懸案だった蔵書の整理に取り掛かる。吉本隆明坂本龍一の対談集『音楽機械論』(ISBN:4845702045)を発掘してぱらぱらと読み返していたら、「〝パクリ合戦〟と〝盗作〟」という、いかにもいまどきのブロガーの皆さんが興味を持ちそうな小見出しが飛び込んできた。しかし残念ながら、あまり面白みのない抽象論に終始している。ただし一次資料として誰かの役に立つかもしれないので、坂本龍一の発言を引用する。

最近は、ポップ音楽でも、そういう意識された盗作というか、引用というか、ずいぶんはやってきて、それで、お互いに引用しあってます。つまり、さっき言ったみたいに、世界地図があって、こっちが出したものを、向うが引用というかパクる。こっちもパクる。そうすると、もうどこからどこまでがオリジナリティなのかわからないような、非常に網目上*1の引用の地図ができあがる。
だから、さっき、ボクシングの例がありましたけど、競うというよりかは、そういうパクリ合戦というのは、否定的な意味じゃなくて、非常に気持いいものです。さっき言った地図というのは、そういうニュアンスですけど。

なおこの本が出版されたのは1986年1月。つまり対談は1985年におこなわれたことになる。「元ネタ本」の元祖とも言える『ドロボー歌謡曲』(ISBN:4924442542)が出版されるのは1987年。坂本龍一の発言に注目すべきところがあるとすれば、パクリを糾弾するのでもなく、かといって「一種のリスペクト」と評価するのでもなく、当たり前の現象として淡々と語っていることだろう。いわゆる「ニューアカ」系の議論に慣れた当時の読者はこの発言を自然に受け入れただろうが、もう少し素朴なレベルで「音楽は素晴らしい」と思っていた読者はどうだったのだろうか。そういうひとが2400円という、当時としても高価な書籍だった『音楽機械論』を買ったとは思えないが。

*1:「網目状」の誤植だろう。