「なんでぼくに直木賞くれなかったんだろうなあ」

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

最相葉月星新一の評伝を書いたというニュースを知ったときには、あまり期待を抱かなかった。彼女に対しては「テーマは面白いのに、掘り下げが甘い」という印象を持っていたからだ。しかしid:otokinoki:20070329:1175173575から、これはどうにも読まなければならない本だとの確信を得て、慌てて書店に走る。最初のページから星新一がアルコールと睡眠薬を過剰摂取していたのに触れられており(遺族に遠慮してこの性癖を曖昧にごまかしていたら買うのはやめようか、と思っていたのだ)、ああ、これは調べるべきことはきちんと調べて覚悟を決めて書いたのだと再確認して購入。全体をぱらりと拾い読みしてからじっくりと読み始めたのだが、いやもう、濃密な内容に窒息しそうである。書き手の資質はまったく異なるが、1920年代生まれの知識人の屈託を描いている点では、四方田犬彦の「先生とわたし」に相通じる。星新一に恩恵を被った者はみな読むべきだろう。
そして没後10年にもなるまでこうした本格的な評伝が出現しなかったことに、出版界で星新一の置かれている状況が映し出されるのであった。