ブラッサンス頌

シャンソンフレンチ・ポップスが好きな日本人は多いだろうが、ブラッサンスのファンとなるとそう多くはないだろう。google:ジョルジュ・ブラッサンスと検索しても、パリ市内にあるジョルジュ・ブラッサンス公園の情報ばかりが見付かってしまう。それも無理からぬ話で、ギター弾き語り(ライブではコントラバスが加わることがある)で抑揚の乏しいメロディーをぼそぼそとつぶやくブラッサンスの音楽は、フランス語が判らないリスナーには魅力的に感じられないのだろう。オレだって第二外国語(世間的には「仏文のひと」だと思われているオレだが、学部は仏文とはまったく関係のない専攻で、大学院で仏文に進んだのである)の授業でフランス語教師からブラッサンスを教わる機会がなかったら、この男のことはいまだに知らなかったかもしれない。
幸いにもbrassensというサイトの「目次と索引」のコーナーを見れば、ブラッサンスの訳詞が読める。興味のあるかたはご参照あれ。例としてわが愛する1曲「墓掘り人夫」の一部を紹介しよう。若いころはこれを聴きながら酔っ払い、涙を流しながら床に就いたものである。

私が心底からの性悪でないことを神様は知っている
私はひとの死を願ったりはしない
けれど誰も死ななかったら
私は飢え死にするしかない
私は因果な墓堀人だ


死人の背中におぶさってパンを稼ぐ私には
何の呵責もないと羽振りのいい連中は信じている
けれどそんなもんじゃない それどころか
私は辛い思いで彼らを埋葬するのだ
私は因果な墓堀人だ


私が浮かぬ顔をしていると
なおさら朋輩が私をからかう
おいお前 時々 お前の顔は
とむらいそっくりだぜ と
私は因果な墓堀人だ
http://www.za.ztv.ne.jp/octi/sub3.htm

訳文がいささか「お上品」すぎるきらいはあるが、こういう「心優しいブラックユーモア」を愛し、「ぼくは君を愛している/だからこそ結婚なんてしないのさ」と斜にかまえ、ニヒルな口調で権力者たちをこき下ろす、ブラッサンスはそんなシャンソニエだったのである。
と紹介した商品の魅力について贅言を費やしたところで当選率が高まるわけではないのだが、それでも書きたくなったのだから仕方がない。