破綻して悪いか

ちなみに上のニュースで、吉野は次のようなことを言っていた(いい加減な記憶に頼って再現しているので、引用するときにはご注意を)。
安吾『街はふるさと』は長篇小説としてあきらかに破綻しています。でもそこがすごいんです。綺麗に『オチ』が付く人生なんてないじゃないですか。誰の人生だって破綻だらけです。だから破綻している小説のほうが、真実を描いているように思えるんです」
安吾は長篇小説を書くのが得意ではなかった、というのはすでに定説となっている。まともに完成させられたのは犯人当て推理小説という枠組みがあった『不連続殺人事件』だけで、あとは未完のままか、完成はしたものの、失敗に終わっている。とりわけ『吹雪物語』(ISBN:4061960636)は自他共に認める大失敗作として燦然たる地位を獲得しているが、オレはこの小説をなぜか夢中になって読んでしまった。面白くてスケールの大きな小説にしようという作者の意気込みが行間から伝わってきて、その意気込みが読んでいるこちらの精神を侵食し、やめるにやめられなくなるのだ。ただしこの意気込みを単なる「空回り」と受け取ってしまう読者のほうが多いであろうので(だから失敗作扱いされているのだ)、あまり大声では薦めない。