亡妻が家族に遺した「奥田家の記録」。このノートのなかには「
さんさん録」という奇妙な付箋が貼られたページがあった。これは家事一般が苦手で家族との交流も薄い夫、参平(「さん」さん)のための生活覚え書きであった。このノートを読んだ参平は
専業主夫を宣言するのだが……と、これだけ書くとどたばたコメディのようだが、
こうの史代がそんなものを書くはずもなく、実際には淡々とした雰囲気に仕上がっている。何よりも
エクリチュールによって亡妻と(非オカルト的な)対話を交わすという設定がよい。
エクリチュールは死せる言語だからこそ、生きながらえた者をして走らしむるのだ。