モード的

モーダルな事象 (本格ミステリ・マスターズ)

モーダルな事象 (本格ミステリ・マスターズ)

読了。マスコミ批判や社会諷刺といった要素が盛り込まれてもおかしくない設定なのに、まったくそうはならない点など、いかにも奥泉光らしい。食事のシーンがやたらと多く、しかもいちいち旨そうなのが印象に残る。生肉生魚を愛し、いかなるときでも食への執着を忘れないフリーライター兼ジャズシンガーと、醗酵したものを好み、何かに熱中するとすぐに食事がどうでもよくなる編集者では、離縁もやむなしというべきか。

これ、実は松本清張の手法を随所で使ってるんですよ。探偵をあちこち移動させてトラベルミステリーにしているところとか、謎は解かれるんですけど、結構偶然に頼っているところとか。(巻末のインタビューより。強調は引用者による)

どうもこのひとは「創作の意図」をインタビューやエッセイであっさり語りすぎる嫌いがある。だからといって面白さが減じるわけではないのが、不思議なところ。
あと登場人物の名前に関して、物語的な必然性があるのではないかと思えるくらい派手な校正漏れがあるような気がして、何やら落ち着かぬ心持ちで読み終えたのだが、最初のほうを読み返して、自分の勘違いであったと気付く。『グランド・ミステリー』(ISBN:4048730894)には「物語的な必然性があるのではないかと思えるくらい派手な校正漏れ」があったので(文庫版では修正されているようだが)、どうにも気になったのであった。