ラブソングと「キモさ」

と言いつつ、「恋愛などの身近な日常を描いた歌手には共感できるけど、政治や社会を歌っている歌手は『キモい』と思う」という意見にも、オレは納得しがたいものを感じる。矢野顕子を唯一の例外として、ラブソングを聴いて歌詞の内容に共感できたためしがまったくないからだ。なぜみんな、あんなことを真剣に歌っているのだ。キモい(笑)。それ以前の問題として、なぜ歌詞カードを見ないで歌詞の内容を聴き取れるのだ(これは本当に不思議。オレにはない特殊なリテラシーだ)。

殊能将之はみずからのサイトで、


 わたしにとって、シオドア・スタージョンマーヴィン・ゲイに近い存在である。ゲイの歌声は好きだし、すばらしい音楽であることは間違いない。しかし、歌詞を読むと、ときどき気持ち悪くなるのだ(たとえば「Sexual Healing」)。性愛がほとんど宗教的な対象にまで高められている点が、どうも肌に合わない。

a day in the life of mercy snow
と書いている。この感覚はとてもよく理解できる。また性愛ではなく恋愛を、宗教的な対象にまで高めることすらせずに歌っている生温さが、オレが日本の「ラブソング」に対して抱いている違和感のひとつだろう。「本気で歌っているとは思えない」が「政治や社会をテーマにしているポピュラー音楽」に対する常套的な批判だが、オレにはラブソングのほうが「本気で歌っているとは思えない」。むしろレコード会社やプロデューサーの意向によって、「歌わされている」感じがする。
なおマーヴィン・ゲイの作品でオレがいちばん好きなのは、"What's Going On"[amazon]というきわめて「政治的な」アルバムである*1。そしてこのアルバムが大ヒットしたことは、ラブソングばかりが売れるのが日本特有の現象であることを示す、ひとつの証左ではないだろうか。

と、「日本人は特殊だ」という理由で日本人を批難するような言説には飽きているし、ラブソングしか受けないのは、そもそも日本にはアメリカほど深刻な政治問題や社会問題が存在していないからなのかもしれないが、アメリカがそのような国だと思うのも偏見にすぎないのかもしれず、なんかもう、何に対して文句を言っているのか判らなくなってきたし、論理も破綻しまくりなので、とりあえずジョン・レノン忌野清志郎は圧倒的に偉いということを、とりあえずの結論としておく。

*1:正確に言えば、これしか聴いたことがないし、当然ながら歌詞なんか聴き取れるはずもなく、おまけに輸入盤で買ったので、この作品の政治性を知ったのは、だいぶあとなのだが。