獨墺至上主義の恐怖
「やる夫で学ぶ音楽史」を肴にしてTwitterで議論(というほどでもないが)していたらいろいろな疑問点が出てきたので、箇条書きする。
- 新ウィーン楽派の扱いが軽すぎる
- 『月に憑かれたピエロ』はそんなに聴きづらいか
- 総じてフランスの作曲家に冷たい
- サティとメシアンだけとはどういうことだ
- ロシアの作曲家も冷遇されている
- イタリアオペラをほとんどスルー
- ヴェルディがまったく無視されているのがひどい
- 現代音楽は「面白くない」が前提
- ケージとクセナキスしか取り上げないのはアンフェア
- おまえらは愛国心がなさすぎるよ
- 武満徹くらいは言及しやがれ
結論としてこれは「やる夫で学ぶ音楽史」ではなく、「やる夫で学ぶ18世紀中盤から第一次世界大戦勃発までのドイツ・オーストリア音楽史」である。それ以外の地域、時代に関してはほとんど参考にならない。この辺はメタコメントによって修正されつつあるが、元スレッドで話を誘導していたひとは自分の視野の狭さに気付いているのだろうか。万人が納得できる音楽史なんて書きようがないわけだが。
「映画」を観た
「いくら『いま、日本映画が熱い』といっても、実際にヒットしているのはテレビドラマの水増しとアニメばっかりじゃん」とお嘆きのかたは、若松孝二『実録・連合赤軍』をいますぐ観に行かなければならない。「そんなことを言われても、地元の映画館では上映されていない」という関東地方在住の者はDVDが発売されるまで待つという野暮はやめ、万難を排してテアトル新宿まで赴くべきである。連合赤軍の行為を美化するわけでも正当化するわけでもなく、かといって貶めたり矮小化することもない、さまざまな参考資料を駆使して作られた純度99パーセントのノンフィクション。3時間10分もあるが、まったく飽きない。いままでよく理解できなかった「山岳ベース事件」と「あさま山荘事件」の繋がりが、この映画でようやく判った。
それにしても「総括」を迫られるシーンは見ていて息苦しくなる。活字媒体では何度も読んだことがあるが、いざ映像になると迫力が違う。他人に命じられて主体的に自己批判するという大きな矛盾。内省的で生真面目な人間であるほどこのアポリアの前に立ちすくみ、結局は凄惨なリンチ死を遂げることになる。はっきりいって山岳ベースのなかで行なわれていたのは、体育会系のサークルにおける非合理的で効果の薄い「しごき」や「いじめ」以外の何物でもない。高等教育を受けていようがいまいが、閉鎖的な集団に放り込まれた日本人は同じことをしてしまいがちだと確認し、暗澹たる気持ちになる。そして最後のテロップまで来て、これが決して「過去に起こった悲惨な事件」ではなく、現在進行中で続いている事件だと観客は思い知らされることになる。
以上の説明からも判るように決して楽しい映画ではない。しかし目を離せない。何しろ日曜日の夜なのに満席で、しかも客層は多種多様。おまけに上映時間の長さにかかわらず、途中退席する者はほとんどいなかった(となりの席に座っていた中年男性は断続的に居眠りしていたが。
なおこの事件に興味があるひとには、山本直樹の『レッド』もお勧め。個人的には『レッド』を読んでから、『実録・連合赤軍』を観たほうが、話に入り込みやすいと思う。
- 作者: 「実録・連合赤軍」編集委員会+掛川正幸
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- 作者: 山本直樹
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