ミツバチの剽窃

林達夫評論集 (岩波文庫 青 155-1)

林達夫評論集 (岩波文庫 青 155-1)

大学時代に読んだはずなのにほとんど内容を覚えていないこの本を、これといった目的もなくぱらぱらとめくる(ところではてなダイアリーキーワードの「林達夫」が「いくら何でもこれはないだろう」という内容だったので、全面的に書き換えた)。
なかでは「いわゆる剽窃」が気になった(初出は「東京朝日新聞」の1933年1月22日から25日)。これは三木清が板垣直子(「日本で最初の本格的な女性文芸批評家」と位置づけられているようだ)から海外の論文からの剽窃が多いのを指摘され、「最近、センセーショナルな話題になった事件」となったのを受けて書かれたものである。林はアナトール・フランスが「剽窃家」ドーデを擁護したときの「人は蜜蜂のように他に迷惑をかけずに盗むことができる。だが、穀粒をまるごと略奪する蟻の盗みは決して真似してはならぬ」という文章を引いて、三木清がやったことは「蜜蜂式」の剽窃だと擁護している。これには林が三木の親友だったという事情も背後にあるのかもしれないが、パクリをめぐる議論のパターンが75年前からさほど変わっていない例として挙げておく。さすがに林達夫は「オマージュだからいいのだ」とは言わなかったけどさ。なおオレがパクリをめぐる議論でもっとも不毛で生産性がないと思うのは、「オマージュだからいいのだ」である。