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活字版「ボンズ〜ル」に掲載されたオノ・ナツメ『not simple』評がウェブ版にも掲載されました。
http://bonzour.fr/index.php?itemid=200
原文を掲載します。

オノ・ナツメ『not simple』(小学館) 2004-2005
 オノ・ナツメは去年から批評家やマニアのあいだで評価が高まっている漫画家である。もとの出版社が倒産したために未完のまま絶版になったこの作品が、大手出版社の小学館から完全版として復刊されたのも、彼女に対する期待の高さを示している。この作品はイアンという純朴な青年が、その純朴さゆえにさまざまな人間に翻弄され、「運もツキもなく」人違いで殺されるまでを描いている。イアンをとりまく人間関係はまさに「not simple」で、物語を要約するのは難しい。しかもオノは大袈裟で判りやすい表現を避け、すべての出来事を淡々と描くので、注意深く読まないと物語を理解しづらいかもしれない(これは彼女の他の作品にも当てはまる特徴だ)。イアンのたどる人生はきわめて悲惨であり、救いがない。にもかかわらず読者に後味の悪さや不快さを与えないのは、オノの語り口と絵が非常に洗練されているからだ。いかにも「オタク」的ではない、もっと違ったタイプの日本の漫画に興味があるならば、オノ・ナツメの名前は記憶に留めたほうがいいだろう。