煉獄

筒井康隆『ヘル』(ISBN:4167181150)、読了。すでに死んでいるが、成仏できていない男女がさまよう煉獄を描く。話が展開するにつれて時系列が混乱し、文体が壊れていくのは『驚愕の曠野』や『邪眼鳥』と同じ手法だが、『驚愕』『邪眼』ほどの眩暈には襲われず。しかしこういう手法に「ハマる」かどうかは、読み手のそのときの精神状態にかかわってくるので、「筒井、衰えたり」などというつもりはない。それよりも感じるのは、この作品の執筆時点で70歳近くになっていた筒井康隆にとって、「死」がいよいよ身近な問題になってきたこと。若いころから死に対する恐怖と好奇心がないまぜになった作品を書き続けてきた彼が、これからどのように死を描くのか、興味を持たないわけにはいかない。