馬鹿猫と猫馬鹿

大佛次郎『猫のいる日々』を読み始める。愛猫エッセイの最たるものならんか。

 猫は僕の趣味ではない。いつの間にか生活にならなくてはならない優しい伴侶になっているのだ。猫は冷淡で薄情だとされる。そう云われるのは、猫の性質が正直すぎるからだ。猫は決して自分の心に染まぬことをしない。そのために孤独になりながら強く自分を守っている。用がなければ媚びもせず、我儘に黙り込んでいる。それでいて、これだけ感覚的に美しくなる動物はいない。贅沢で我儘で他人につめたくすることは、どんな人間の女のヴァンパイアより遥かに上だろう。