猥雑なる江古田

オレの父親は江古田の街を苦手としていたようで、「こんなごみごみしたところでは、芸術的な感性は育たないのではないか」とぼやいていたことがあった。いや、こういうほどよく猥雑な街こそが「芸術」的なのだと反論しようとしたものの、すでに年老いたる父親と本気で論争する気にはなれず、この件は宙ぶらりんのままに放り出されることになった。洗練されたもの、清潔なもの、都会的なもの、秩序だったもの、19世紀的なものへの憧れがひと一倍強かった父親にとって、たしかに江古田は相容れない街だったのかもしれないが。