8月ジャーナリズム

毎年この時期になると、アジア・太平洋戦争がらみのドキュメンタリーがテレビでよく放映される。近現代史がテーマのドキュメンタリーは好きなのでつい観てしまうのだが、佐藤卓己八月十五日の神話』(ISBN:4480062440)を読んでしまった今年の夏は、どの番組にも真剣になれない。「8月6日」や「8月9日」や「8月15日」を過剰に特権視しているうちは、アジアに対する加害者意識とアメリカに対する被害者意識を表明しておけば、「私は戦争について真面目に考えています」というポーズを取ることができた「記憶の五五年体制」から抜け出せないのではないか。

 結論から言えば、イデオロギー的対立の場であった義務教育の歴史教科書でも、「記憶の五五年体制」による均衡が存在したと見るべきだろう。つまり、「八・一五革命」の神話を掲げる進歩派の論理と、「九・二降伏」の以降の現実を否認したい保守派の心理が、「八・一五終戦」の利害において見事に一致したのである。(p211)