創造と労働

石神井なら電車ですぐに行けるから」ぐらいの安易な気持ちで、だれがつくるの? 日本のアニメ 11・30 アニメーションの現状を考える集いというイベントに参加する。要するに労働組合の決起集会であった。

と書くと揶揄しているようだが、[[東映動画]]労働組合*1がオーガナイズしており、「過酷な労働条件を強いられる動画アニメーターと、それを搾取する親会社の経営者」という図式をはっきり打ち出していたのだから、「労働組合の決起集会」としか言いようがない。

スタジオジブリですら『魔女の宅急便』公開当時はスタッフの平均年収が120万円ほどだったというエピソードから判るように、アニメ業界をとりまく環境はいいものではない(らしい)。とりわけ動画アニメーターは下請けの下請けの下請け的な存在であり、経営者からすれば「いくらでも取り替え可能な労働力」にすぎない(らしい)。今日の話を聞くかぎりでは、たしかに動画アニメーターは低賃金と長時間労働に苦しんでいる。これは改善しなければならないだろう。しかし「低賃金と長時間労働」といえばほかの職種にも共通する問題であり、アニメーターに固有のものではない。中途半端なクリエイター幻想にしがみつくよりは、同じ「低賃金と長時間労働」に苦しむ仲間としてコンビニのバイトや街頭のティッシュ配りと共闘したほうが現実的なのではないかと、少しだけ思った。

あと動画アニメーターにとっての「敵」が経営者であることは痛いほど理解できたのだが、監督・脚本・演出といった作品内容にじかにタッチできる立場のひとたちにはどのような気持ちを抱いているのだろう。彼らもやはり「敵」なのか、それとも「かくありたい」という目標なのか。

質疑応答で「いまのアニメには不道徳な表現や猥褻な表現が多すぎるのではないか」と質問したひとがいた。この質問が場違いな印象を与えたのは、そもそも動画アニメーターに訊くような内容ではなかったからだろう。国会議員ではなく国会の速記係に、「いまの日本の政治はこのままでいいんでしょうか」と訊いているようなものなので。

それから「いまどきの粗製濫造のアニメ」を蔑むような発言が相次いだのも気になった。そう言いたくなる気持ちも判るが、リアルタイムで作られている作品に敬意を持たず、ただ「むかしは良かった」と言っているだけでは、一般のアニメファンの共感は得られないだろう。

と、いろいろ書いたが、経営者と労働者、クリエイターとユーザーの境目が曖昧で、それゆえに「労働運動」や「消費者運動」が起こりにくい出版業界や音楽業界と、アニメ業界はかなり異なるロジックで動いているのだな、というのが最終的な感想。平凡すぎる。

*1:ちなみに結成当初の書記長は宮崎駿である。