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原宿と代々木でそれぞれ別件の打ち合わせ。どちらの事務所も明治通り沿いにあるので、移動に10分弱しかかからず。

かつて「渋谷には境界があるが、新宿にはない」と語っていた知り合いがいた。そう言われて考えてみると、渋谷は渋谷駅を中心に、NHK放送センター、青山学院、円山町のラブホテル街あたりを外縁としている。そこから先は代々木であり、表参道であり、神泉であり、「渋谷」と呼ばれることはあまりない。

対して新宿には「新宿/非新宿」を分ける明確な指標がない。実際、代々木と新宿、大久保と新宿、四谷三丁目と新宿、初台と新宿のあいだに、はっきりした境界線が引けるだろうか。あるいはもっと広く、中野、四谷、高田馬場あたりも、われわれはしばし「新宿のほう」、「新宿の近く」、「新宿のあたり」として捉えることがある。

ひとは新宿駅からどれだけ離れても新宿的なものから逃れられず、反対にほかの街にいるつもりでも、少し足を延ばせば新宿的なものが支配する領域に迷い込んでしまう。渋谷がいまだに地域名でしかないのに、新宿はある種の文化風土を指す言葉となっているのだ。「新宿系」という言葉が「渋谷系」はおろか「アキバ系」ほどにもポピュラーにならなかったのは、わざわざそんな言葉を作るまでもなく、新宿的なものが東京のいたるところに瀰漫しているからに違いない。そしてどれだけDQN化しようがグローバル化しようオシャレ化しようがIT化しようが、渋谷が新宿に較べれば良くも悪くも「底が浅い」感じがするのは、きっとこのためなのだろう。

原宿から代々木までの街並み、すなわち新宿的なものが渋谷的なものを駆逐していく街並みを歩きながら、そんなことを考えたり。